8月のデータが示したのは日本不動産の高い流動性
2026年8月に公表された市場データを総合すると、日本不動産は「取引が止まらず、賃料も上がる」という強い局面を維持している。CBREが8月3日に公表した第2四半期の事業用不動産投資額は1兆1,210億円で前年同期比17%増加し、第2四半期として2008年以来初めて1兆円を超えた。第1四半期も2兆430億円と高水準だったため、上期を通じて市場の流動性が維持されたことが確認できる。
東京オフィスは価格ではなく収益成長が主役へ
東京オフィス市場ではオールグレード空室率が第2四半期に1.4%、グレードAは0.6%まで低下した。グレードA想定成約賃料は前期比4.3%、前年同期比17.3%上昇した。主要5区を含む市場で空室が限られる中、オフィス環境の改善や拡張を目的とする企業需要が賃料を押し上げている。この動きは、資産価格上昇だけでなくNOIそのものが増加する可能性を示し、日本の投資ストーリーを強化する。
商業・ホテルにはインバウンドが追い風
東京のハイストリート商業市場でも供給制約が鮮明で、CBREによると第2四半期には新宿のプライムエリア空室率が0.0%となり、東京の主要4エリアはいずれもほぼ空室がない状態となった。JNTOが8月19日に公表した7月の訪日外客数は344万2,100人で、前年同月比0.1%増、7月として過去最高だった。観光客の高水準はホテル、店舗、飲食などの不動産収益を支える。ただし6月には訪日客が前年同月比で減少しており、需要の月次変動は無視できない。
物流は改善したが地域差を見る必要
首都圏の大型マルチテナント物流施設では第2四半期の空室率が7.8%と前期比1.4ポイント低下し、実質賃料は4,600円へ1.5%上昇した。東京ベイエリアでは賃料が前期比5.3%上昇している。一方、名古屋や福岡などでは空室率が首都圏より高く、物流市場は全国一律ではない。海外投資家は「日本物流」という大分類ではなく、供給パイプライン、交通アクセス、テナント需要を地域ごとに分析する必要がある。
最大の反対材料は低い取得利回り
8月のデータで最も重要な警告は、強い市場がすでに高い価格へ転換されている点である。東京のプライムオフィス期待NOI利回りは3.10%、ホテルは4.15%となり過去最低を更新した。金利がさらに上昇する場合、賃料成長が続いても評価額が同じ速度で上昇するとは限らない。出口時のキャップレート上昇がNOI増加分を相殺する可能性があるためである。
9月以降は「日本買い」から資産選別へ
中国、香港、シンガポールの投資家にとって8月の結論は、日本不動産の基礎需要が弱いというものではない。むしろオフィス、商業、ホテルなどには明確な収益成長材料がある。しかし価格もそれを織り込み始めた。9月以降は円相場だけで取得時期を決めるのではなく、実際の賃料改定余地、資本的支出、借入コスト、出口利回りを組み合わせた分析が必要になる。次の投資局面では、市場全体の上昇に乗ることより、NOI成長が取得価格を正当化できる資産を見つけることが重要になる。